生産緑地を相続したら相続税はどうなる?納税猶予と特定生産緑地の選択を完全解説
市街化区域で親が営農していた畑を相続することになり、「市街化区域なら宅地並みの評価で、相続税が何千万円にもなるのでは」と不安になる方は少なくありません。その農地が生産緑地に指定されている場合、相続税には評価上の軽減や「農地等の納税猶予」という強力な制度が用意されています。一方で、指定を外したり営農をやめたりすると、猶予された税額に利子税を上乗せして納めることになります。この記事では、生産緑地を相続したときの相続税評価、特定生産緑地の選択、農地の納税猶予の仕組みと打切りリスクを、一次情報に沿ってわかりやすく整理します。
生産緑地とは?ふつうの農地・宅地と何が違うのか
生産緑地とは、市街化区域内にある農地等のうち、緑地としての機能を評価して都市計画で指定された農地のことです。 指定を受けると建築などが制限される代わりに、固定資産税が農地並みに軽くなり、相続税でも評価上の軽減を受けられます。
生産緑地地区は、市街化区域内の農地等で、良好な生活環境の確保に効用があり、面積が500㎡以上(市町村が条例で引き下げている場合あり)、農林漁業の継続が可能といった条件に該当する区域について、市町村が都市計画に定めます(生産緑地法第3条)。指定を受けた農地には建築・宅地造成などの行為制限がかかり、原則として営農を続ける義務を負います。
つまり生産緑地は、「市街化区域にありながら、農地として使い続けることを前提に税負担が抑えられている農地」です。この前提が相続税評価と納税猶予の両方に効いてきます。
生産緑地を相続すると相続税評価はどうなる?
生産緑地は、「生産緑地でないものとして評価した価額」から一定割合を控除して評価します(財産評価基本通達40-3)。 宅地並みに評価したうえで、建築制限がある分を割り引くイメージです。
控除される割合は、課税時期(相続開始時)において市町村長へ買取りの申出をすることが「できない」期間の長さに応じて決まります。買取りの申出ができるようになるまでの期間が長いほど、制限が続くため控除割合も大きくなります。
| 買取りの申出ができるようになるまでの期間 | 控除割合 |
|---|---|
| 5年以下 | 10% |
| 5年超〜10年以下 | 15% |
| 10年超〜15年以下 | 20% |
| 15年超〜20年以下 | 25% |
| 20年超〜25年以下 | 30% |
| 25年超〜30年以下 | 35% |
| すでに買取りの申出をした/申出ができる生産緑地 | 5% |
(国税庁 タックスアンサーNo.4626「生産緑地の評価」・財産評価基本通達40-3)
この表からわかるのは、すでに買取りの申出ができる状態になった生産緑地は控除が5%まで縮むということです。営農を続ける前提が崩れると、相続税評価上のメリットも小さくなります。
特定生産緑地に指定するとどう変わる?(いわゆる2022年問題)
特定生産緑地とは、指定から30年が経過する生産緑地について、買取りの申出ができる時期を10年延期し、10年ごとに更新できる制度です(生産緑地法第10条の2・第10条の3)。 2022年に多くの生産緑地が指定30年を迎えたことが「2022年問題」と呼ばれました。
生産緑地は、都市計画の告示日から30年を経過する日(申出基準日)以後、市町村長へ時価での買取りを申し出ることができます(生産緑地法第10条)。買取りの申出をして、申出の日から3か月以内に買い取られなければ、建築等の行為制限が解除されます(生産緑地法第14条)。
ここで、申出基準日までに特定生産緑地の指定を受ければ、買取りの申出ができる時期がさらに10年先に延び、以後10年ごとに更新できます。逆に指定を受けなければ、いつでも買取りの申出ができる状態になります。相続税の面では、この選択が次の2点に直結します。
- 買取りの申出ができる状態になると、前章の評価控除が5%まで縮む
- 三大都市圏の特定市では、特定生産緑地の指定がされなかった生産緑地は、その後の相続で農地の納税猶予の対象から外れる(次章)
営農を続けるつもりなら、申出基準日までに特定生産緑地の指定を受けておくことが、評価と納税猶予の両面で重要になります。
農地の相続税の納税猶予とは?(措置法70条の6)
農業を営んでいた被相続人から農地等を相続して農業を続ける場合、農地の相続税のうち「農業投資価格を超える部分」の納税が猶予されます(租税特別措置法第70条の6・国税庁 タックスアンサーNo.4147)。 宅地並みの評価で計算した税額のうち、農業を続ける限り大部分を納めずに済ませられる制度です。
農業投資価格とは、農地が恒久的に農業に使われるものとして取引される場合の価格として、国税局長が決めた価格です(おおむね10アールあたり20万〜90万円程度)。この農業投資価格をもとに計算した相続税額だけを納め、通常の評価額との差額に対応する税額が猶予されます。
ただし、市街化区域内の農地は区域によって扱いが異なります。三大都市圏の特定市(平成3年1月1日時点のエリアで判定され、固定資産税の特定市とは必ずしも一致しません)の市街化区域内農地は、原則として納税猶予の対象外ですが、生産緑地地区内の農地は対象となり、終身にわたって農地として利用することが免除の要件になります。田園住居地域内の農地も対象です。
納税猶予はいつ免除される?打切りになるのはどんなとき?
納税猶予は「免除」ではなく「猶予」です。農業相続人が亡くなるまで営農を続ければ猶予税額は免除されますが、途中で要件を外すと、猶予された税額に利子税を上乗せして納めることになります(農林水産省「相続税納税猶予制度」資料)。
免除されるのは、農業相続人が死亡した場合や、後継者へ農地を生前一括贈与した場合などです(タックスアンサーNo.4147)。一方で、次のような場合は猶予が打切りとなり、税額を納めなければなりません。
- 全額の打切り(全額納付)……猶予対象の農地の面積の20%を超えて譲渡・貸付・転用・耕作放棄をした場合、農業経営をやめた場合、3年ごとに提出する「継続届出書」を出さなかった場合など
- 一部の打切り(一部納付)……20%以下の譲渡・転用・耕作放棄をした場合、収用等による譲渡の場合、そして生産緑地について買取りの申出をした場合など
特に見落としやすいのが、生産緑地の買取りの申出そのものが納税猶予の打切り事由になるという点です。「営農をやめて売りたいから買取りを申し出る」と、その部分の猶予税額と利子税の納付が発生します。また、3年ごとの継続届出は忘れると全額打切りになるため、猶予を受けている間は必ず期限管理が必要です。
なお、三大都市圏の特定市の生産緑地では、申出基準日までに特定生産緑地の指定がされなかった農地は、その後の相続で納税猶予の対象から外れます。次の世代へ猶予をつなぎたい場合は、特定生産緑地の指定を維持しておくことが前提になります。
相続後、営農を続けるか売却するか——税務上の分かれ道
生産緑地を相続したあとは、大きく「特定生産緑地として営農を続ける道」と「買取りの申出をして宅地化・売却する道」に分かれ、相続税の扱いが大きく変わります。 税務面の違いを整理すると次のとおりです。
| 比較項目 | 特定生産緑地として営農を続ける | 買取りの申出をして宅地化・売却する |
|---|---|---|
| 相続税評価の控除 | 買取り申出できない期間に応じ10〜35%を控除 | 申出済み/申出可能として控除は5%に縮む |
| 農地の納税猶予 | 三大都市圏特定市の生産緑地なら終身営農で免除の対象を継続 | 買取りの申出が打切り事由となり、猶予税額+利子税が発生 |
| 建築等の制限 | 制限が続く(10年ごとに更新) | 申出後3か月で買取られなければ制限解除・宅地化が可能 |
| 向いているケース | 農業を続ける後継者がいる/次世代へ猶予をつなぎたい | 営農をやめる/資金化したい |
どちらが有利かは、後継者の有無、農地の立地(三大都市圏特定市かどうか)、すでに納税猶予を受けているかどうかで変わります。特に、すでに納税猶予を受けている農地を売却すると、猶予税額に利子税が加算されるため、相続で農地を承継する前に、営農を続けるのか売却するのかの方針を早めに固めておくことが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 生産緑地を相続すると、宅地並みの高い相続税がかかりますか?
A. 相続税評価は宅地並みの価額をもとにしますが、生産緑地は建築制限がある分の割引(財産評価基本通達40-3の控除割合)があり、さらに農業を続ける場合は農地等の納税猶予で「農業投資価格を超える部分」の税額の納税が猶予されます。営農を続ける前提であれば、実際に納める相続税は大きく抑えられるのが一般的です。
Q2. 農地の納税猶予を受ければ、相続税は払わなくてよくなりますか?
A. 「猶予」であって「免除」ではありません。農業相続人が亡くなるまで営農を続ければ猶予税額は免除されますが、途中で農地を売ったり営農をやめたりすると、猶予された税額に利子税を加えて納めることになります。あくまで「農業を続ける限り納税を待ってもらえる」制度と理解してください。
Q3. 特定生産緑地の指定を受けないと、相続税で不利になりますか?
A. 買取りの申出ができる状態になるため、相続税評価の控除が5%まで縮みます。加えて、三大都市圏の特定市では、特定生産緑地の指定がされなかった生産緑地は、その後の相続で納税猶予の対象から外れます。営農を続けるなら、申出基準日までに特定生産緑地の指定を受けておくのが基本です。
Q4. 相続した生産緑地を売りたい場合、どんな税負担がありますか?
A. 生産緑地を売るには買取りの申出が必要ですが、この買取りの申出は農地の納税猶予の打切り事由に当たります。すでに納税猶予を受けている場合は、売却した部分に対応する猶予税額と利子税の納付が生じます。売却益には別途、譲渡所得税・住民税もかかります。売却を検討する際は、猶予の打切りによる税負担も含めて試算が必要です。
Q5. 納税猶予を受けた後、やることはありますか?
A. 猶予を続けるには、3年ごとに「継続届出書」を税務署へ提出する必要があります。これを出し忘れると猶予が全額打切りになります。また、農地の一部でも転用・売却・耕作放棄をすると打切りの対象になるため、営農の継続と期限管理を怠らないことが重要です。
まとめ
- 生産緑地は市街化区域内でも建築制限がある分、相続税評価で10〜35%(買取り申出が可能な場合は5%)の控除を受けられる(財産評価基本通達40-3)
- 農業を続ける場合は、農地等の納税猶予で「農業投資価格を超える部分」の相続税の納税が猶予される(措置法70条の6・タックスアンサーNo.4147)
- 納税猶予は「猶予」であり、農業相続人の死亡等で免除される一方、営農をやめる・20%超の転用・継続届出の未提出などで打切りとなり、利子税が加算される
- 生産緑地の買取りの申出そのものが納税猶予の打切り事由になるため、売却は税負担を含めて慎重に判断する
- 三大都市圏の特定市では、特定生産緑地の指定を維持しないと、その後の相続で納税猶予の対象から外れる
生産緑地の相続は、相続税評価・納税猶予・特定生産緑地の指定が絡み合い、選択を誤ると数百万円単位で税負担が変わります。営農を続けるか売却するかで最適な手続きが異なり、いったん納税猶予を受けた後の打切りには利子税も伴うため、相続が起きる前の段階から方針を固めておくことが大切です。判断に迷う場合は、農地の相続に詳しい税理士や、市区町村・税務署の相続相談窓口へ、申告期限に余裕をもって早めに相談しておきましょう。