内縁関係と相続税|相続権がない場合の税務対策を初心者向けに解説
長年連れ添ったパートナーがいるけれど入籍はしていない――いわゆる内縁関係(事実婚)の方が「自分が先に亡くなったら相手に財産を残せるのか」と不安に思うのは当然です。結論から言うと、内縁のパートナーには法律上の相続権がありません。対策をしなければ、長年一緒に暮らした相手に1円も渡らず、疎遠な親族に財産が渡ることもあります。さらに、たとえ財産を残せても、内縁者には配偶者の税額軽減が使えず、相続税の2割加算や生命保険の非課税枠の対象外という不利も重なります。この記事では、内縁のパートナーに財産を残す3つの方法と相続税の扱いを解説します。
内縁関係のパートナーに相続権はある?
ありません。法律上の相続権が認められるのは、戸籍上の配偶者と一定範囲の血族(子・親・兄弟姉妹など)だけで、婚姻届を出していない内縁のパートナーは何年同居していても法定相続人になれません。
民法の定める法定相続人は「配偶者+血族相続人」です。この「配偶者」とは婚姻届を提出した戸籍上の配偶者を指し、事実上夫婦同然の生活を送っていても内縁関係は含まれません。したがって内縁者には、遺産分割協議に参加する権利も遺留分もありません。
対策をしないまま亡くなると、被相続人に子や親、兄弟姉妹がいればその人たちが財産を相続し、誰も法定相続人がいなければ財産が国庫に帰属することもあります。長年支え合った相手に確実に財産を残すには、生前の準備が欠かせません。
内縁のパートナーに財産を残す3つの方法とは?
内縁者に財産を残す主な方法は、①遺言による遺贈、②生前贈与、③生命保険の受取人指定の3つです。いずれも生きているうちに手を打つ必要があります。
| 方法 | 仕組み | かかる税金 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 遺言による遺贈 | 遺言書で「Aに遺贈する」と指定 | 相続税(2割加算) | 全財産を残せるが他の相続人の遺留分に注意 |
| 生前贈与 | 生きているうちに財産を渡す | 贈与税(暦年110万円控除) | 少額を毎年コツコツ。短期は税負担が重い |
| 生命保険の受取人指定 | 保険金の受取人を内縁者に | 相続税(非課税枠なし) | 確実に現金を渡せるが受取人変更の可否を要確認 |
財産の種類や金額によって最適な方法は変わるため、組み合わせて使うのが現実的です。以下で一つずつ見ていきます。
遺言で財産を残すと相続税はどうなる?
遺言書で内縁者に財産を残すこと(遺贈)は可能ですが、内縁者が取得した財産には相続税の「2割加算」が適用されます。
相続税には、財産を取得した人が「被相続人の配偶者・父母・子(一親等の血族)」以外の場合、相続税額が1.2倍になる「2割加算」があります(国税庁 タックスアンサーNo.4157「相続税額の2割加算」)。内縁のパートナーは配偶者にも一親等の血族にも当たらないため対象で、本来100万円の税額なら120万円を納めます。
また、内縁者は法定相続人ではないため、配偶者の税額軽減(1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い額まで非課税)は一切使えません。戸籍上の配偶者なら大きく節税できる制度が、内縁関係では適用外です。
さらに、被相続人に子や親などの法定相続人がいる場合は、その人たちの「遺留分(最低限保障された取り分)」を侵害しないよう注意が必要です。全財産を内縁者に遺贈するとトラブルになりかねません。公正証書遺言で確実に残しつつ、遺留分にも配慮した配分が安全です。
生前贈与なら税金は軽くなる?
生前贈与は、年間110万円の基礎控除(暦年課税)を活用すれば無税で財産を移せますが、短期間でまとまった額を渡すと贈与税の負担が重くなります。
暦年課税では、1年間に贈与を受けた財産の合計が110万円以下なら贈与税はかかりません(国税庁 タックスアンサーNo.4408「贈与税の計算と税率」)。毎年110万円ずつ長期間かけて渡せば、無税で財産を移せます。
ただし、内縁者は親族ではないため、子や孫への贈与に使える有利な「特例税率」が使えず「一般税率」が適用されます。また、年間110万円を大きく超える贈与には高い贈与税がかかり、短期間で多額を渡すと相続税より不利になることもあります。健康なうちから計画的に進めるのが、生前贈与を生かすコツです。
生命保険で残すと非課税枠は使える?
使えません。生命保険金の「500万円×法定相続人の数」の非課税枠は、保険金を受け取る人が法定相続人である場合に限られるため、内縁者が受取人だと非課税枠は0円です。
死亡保険金には通常、「500万円×法定相続人の数」までを課税対象から外せる非課税枠があります(国税庁 タックスアンサーNo.4114「相続税の課税対象になる死亡保険金」)。しかしこれが使えるのは法定相続人が受け取った場合だけ。内縁者は法定相続人ではないため、保険金は1円も非課税にならず全額が課税対象(みなし相続財産)となり、前述の2割加算もかかります。
それでも生命保険には「受取人を指定すれば確実に現金を渡せる」利点があります。保険金は遺産分割協議の対象外で受取人が直接受け取れるため、納税資金にもなります。なお、保険会社によっては内縁者を受取人に指定できない場合もあるため、加入・変更前に取り扱いを確認しておきましょう。
ケーススタディ|内縁者が遺贈で受け取るといくらかかる?
具体的な金額で負担を見てみましょう。
【ケース】Aさん(被相続人)には戸籍上の配偶者も子もおらず、唯一の法定相続人は弟が1人。Aさんは公正証書遺言で、内縁のパートナーBさんに全財産3,000万円を遺贈した。
- 基礎控除額:3,000万円+600万円×1人(弟)=3,600万円
- 課税遺産総額:遺産3,000万円 − 基礎控除3,600万円 = 0円
この場合、遺産総額が基礎控除を下回るため相続税はかかりません。Bさんは3,000万円をそのまま受け取れます。
一方、Aさんの遺産が8,000万円なら課税遺産総額は4,400万円。算出した相続税額に、Bさんは法定相続人でも一親等の血族でもないため2割加算が適用され、本来より2割多く負担します。配偶者の税額軽減も保険の非課税枠もなく、戸籍上の夫婦に比べ税負担が重くなる――これが内縁関係の相続の現実です。
法定相続人が誰もいない場合は?特別縁故者の制度
法定相続人が一人もいない場合に限り、内縁のパートナーは「特別縁故者」として家庭裁判所に申し立て、財産の全部または一部の分与を受けられる可能性があります。
特別縁故者とは、被相続人と生計を同じくしていた人や療養看護に努めた人などを指し、内縁のパートナーは典型例にあたります。ただしこれは、相続人の不存在が確定し、相続財産清算人による手続き(公告など)を経て家庭裁判所が認めた場合に初めて財産を取得できる制度で、通常1年以上かかり、必ず認められる保証もありません。
つまり特別縁故者は「最後の手段」です。確実に財産を残したいなら、生前に遺言を作成しておくほうがはるかに確実です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 内縁関係を証明できれば相続権はもらえますか?
A. もらえません。住民票で同一世帯になっている、長年同居しているといった事実があっても、婚姻届を出していない以上は法定相続人になれません。財産を残すには遺言・贈与・保険などの生前対策が必要です。
Q2. 内縁のパートナーとの間に子どもがいる場合は?
A. 母の子は当然に相続人です。父の子も、認知されていれば(または遺言で認知すれば)一親等の血族として相続でき、2割加算もかかりません。子を通じて財産を残すことも選択肢になります。
Q3. 遺贈と生前贈与、どちらが税金面で有利ですか?
A. ケースによります。財産が基礎控除以下なら遺贈(相続税)が有利なことが多く、財産が大きければ毎年110万円ずつの暦年贈与で移すほうが有利なこともあります。金額・期間を踏まえ税理士に試算してもらうのが確実です。
Q4. 内縁者でも相続税の申告は必要ですか?
A. 遺贈や保険金で財産を取得し、遺産総額が基礎控除を超える場合は申告が必要です。期限は相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内。2割加算の計算もあるため、早めの準備をおすすめします。
まとめ
- 内縁(事実婚)のパートナーには法定相続権がなく、対策をしないと財産を残せない
- 財産を残す方法は①遺言による遺贈②生前贈与③生命保険の受取人指定の3つ
- 内縁者が取得した財産は相続税の2割加算の対象(配偶者・一親等血族以外のため)
- 配偶者の税額軽減も、生命保険の「500万円×法定相続人の数」の非課税枠も使えない
- 法定相続人が誰もいなければ特別縁故者として分与を受けられる可能性はあるが確実性は低い
内縁関係では、戸籍上の夫婦なら当然に使える相続の優遇がほとんど受けられません。だからこそ、遺言・生前贈与・生命保険を組み合わせた早めの準備が、大切なパートナーを守る最大の対策になります。2割加算や遺留分など判断の難しい論点も多いため、相続税に詳しい税理士や市区町村・税務署の無料相談窓口に、元気なうちに一度相談しておくことを強くおすすめします。