土砂災害特別警戒区域にある宅地の相続税評価はどうする?補正率と計算方法をわかりやすく解説
相続した土地が「土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)」に含まれていると、その利用制限に応じて相続税評価額を一定割合減額できる場合があります。これは財産評価基本通達20-6で定められた独立の評価項目で、平成31年(2019年)1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した宅地に適用されます。この記事では、制度の仕組み・補正率・具体的な計算方法・注意点を、相続に直面した一般の方向けに噛み砕いて説明します。
そもそも土砂災害特別警戒区域内の宅地は相続税で減額できるの?
できます。土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)内となる部分を含む宅地は、その利用制限に応じて一定の減額補正を受けられます。 これは財産評価基本通達20-6「土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価」という独立した評価項目として定められたものです。
土砂災害特別警戒区域とは、土砂災害防止法9条にもとづき指定される区域で、建築物の構造規制(同法24・25条)が課され、宅地としての利用に制限が生じます。この制限によって土地の価値が下がると考えられるため、相続税・贈与税の評価上、その分を減額して評価できる仕組みになっています。
対象になるのは、相続・遺贈・贈与で取得した「宅地」のうち、この区域内となる部分を有するものです。適用時期は平成31年(2019年)1月1日以後に取得した財産の評価からとされています。
補正率はどのくらい?計算式はどうなる?
「その宅地が区域内でなかった場合の価額」に、区域が占める割合に応じた特別警戒区域補正率(0.90〜0.70)を乗じて評価します。 補正率は、宅地全体の地積に対して特別警戒区域部分が占める割合で決まります。
通達20-6の原則的な計算式は次のとおりです。
`
路線価 × 奥行価格補正率 × 特別警戒区域補正率 × 地積`
補正率は付表9「特別警戒区域補正率表」で、次の3段階に区分されています。
| 特別警戒区域の地積 ÷ 総地積 | 特別警戒区域補正率 |
|---|---|
| 0.10以上 0.40未満 | 0.90 |
| 0.40以上 0.70未満 | 0.80 |
| 0.70以上 | 0.70 |
割合が大きい(区域内部分が広い)ほど、補正率が小さくなり減額が大きくなります。なお、割合が0.10未満の場合は付表9に区分がなく、補正の対象外(減額なし)と読めますが、これは表の構造から解釈される扱いであり、明示的な断り書きがあるわけではありません。
実際にいくらになる?具体的な計算例で見てみよう
たとえば総地積400㎡のうち100㎡が区域内(割合0.25)なら補正率0.90となり、評価額は3,600万円になります。 国税庁のあらまし資料に載っている設例で確認してみましょう。
設例1(がけ地がないケース)
- 総地積:400㎡
- 特別警戒区域部分:100㎡
- 割合:100 ÷ 400 = 0.25 → 「0.10以上0.40未満」区分 → 補正率 0.90
- 路線価:100,000円、奥行価格補正率:1.00
計算すると、
`
100,000円 × 1.00 × 0.90 × 400㎡ = 36,000,000円(3,600万円)`
区域内でない場合の4,000万円と比べ、400万円の減額になります。
設例2(がけ地もあるケース)
がけ地補正(通達20-5)にも該当する場合は、補正率を掛け合わせて調整します。
- 総地積:400㎡、特別警戒区域部分:300㎡ → 割合0.75 → 補正率 0.70
- がけ地(南方位)200㎡ → がけ地割合0.5 → 南方位のがけ地補正率 0.82
- 特別警戒区域補正率 = 0.70 × 0.82 = 0.57(小数点以下2位未満切捨て)
計算すると、
`
100,000円 × 1.00 × 0.57 × 400㎡ = 22,800,000円(2,280万円)`
このように、がけ地補正がある場合は両方の補正率を乗じます。ただし乗じた結果の最小値は0.50とされており、これより小さくはなりません。なお、設例2で使った南方位・がけ地割合0.5の補正率0.82は付表8「がけ地補正率表」由来の値です。ほかの方位や割合を使う場合は、付表8の原本で該当する数値を確認する必要があります。
がけ地補正や警戒区域(イエローゾーン)とはどう違う?
特別警戒区域補正(20-6)・がけ地補正(20-5)は別制度で、両方に該当すれば掛け合わせます。一方、警戒区域(イエローゾーン)だけの宅地はこの補正の対象になりません。 混同しやすいので整理します。
| 区分 | 根拠 | 宅地利用の制限 | 相続税評価での扱い |
|---|---|---|---|
| 特別警戒区域(レッドゾーン) | 土砂災害防止法9条 | 建築物の構造規制あり | 20-6の補正あり(減額対象) |
| 警戒区域(イエローゾーン) | 同法7条 | 法的な利用制限なし | 補正の対象外 |
| がけ地等を有する宅地 | 通達20-5・付表8 | 通常の用途に使えない部分 | がけ地補正あり(20-6と併用時は乗算・下限0.50) |
警戒区域(イエローゾーン)は、警戒避難体制の整備やハザードマップの周知などの義務はあるものの、特別警戒区域に指定されない限り宅地としての利用は法的に制限されません。危険性はすでに地価水準に織り込まれているとして、特別警戒区域内に存しない宅地は本評価の適用対象とはされていません。
がけ地補正(20-5)は、がけ地など通常の用途に供せない部分を有する宅地について、その方位と割合に応じて付表8のがけ地補正率で減額するものです。土砂災害特別警戒区域の補正とは別の制度で、両方に当てはまる場合は上記のとおり補正率を掛け合わせます。
適用されないケースや注意点はある?
倍率地域内の宅地には適用されず、また課税時期に区域指定が解除されていれば対象外です。 いくつか押さえておきたい点があります。
- 倍率地域は対象外:倍率地域に所在する特別警戒区域内の宅地は、減価がすでに固定資産税評価額に反映されているとして、本評価の適用対象とはされていません。
- 課税時期が基準:課税時期(通常は相続開始日など)において指定されている区域が対象です。工事などで指定事由が消滅し、課税時期より前に指定解除が公示された場合は対象外となります。指定・解除は公示によって効力が生じます(土砂災害防止法9条6項・9項)。
- 市街地農地なども対象になりうる:宅地比準方式で評価する市街地農地・市街地周辺農地・市街地山林・市街地原野、および宅地に状況が類似する雑種地が特別警戒区域内にある場合は、適用対象とされています。
適用の可否や補正率は、区域指定の状況や土地の形状によって変わります。判断に迷う場合は、税務署や相続税に詳しい専門家に確認することをおすすめします。
よくある質問
Q1. 土砂災害特別警戒区域に少しでもかかっていれば減額できますか?
A. 付表9では特別警戒区域が総地積に占める割合が「0.10以上」から補正率が定められています。割合が0.10未満の場合は表に区分がなく、補正の対象外(減額なし)と読めますが、これは表の構造からの解釈であり、明示の断り書きがあるわけではありません。具体的な割合は実測にもとづいて判断されます。
Q2. 警戒区域(イエローゾーン)でも相続税は下がりますか?
A. 下がりません。警戒区域(土砂災害防止法7条)は宅地としての利用が法的に制限されず、危険性はすでに地価に織り込まれているとされ、特別警戒区域内に存しない宅地は本評価の適用対象とされていません。減額の対象になるのは特別警戒区域(レッドゾーン)です。
Q3. がけ地補正と特別警戒区域補正は両方使えますか?
A. 使えます。がけ地補正(通達20-5・付表8)の適用がある場合は、特別警戒区域補正率にがけ地補正率を乗じた数値を補正率とします。ただし乗じた結果の最小値は0.50とされ、これより小さくはなりません。
Q4. いつ相続した土地から対象になりますか?
A. 平成31年(2019年)1月1日以後に相続・遺贈・贈与によって取得した財産の評価に適用されます。
Q5. 倍率地域の土地でも減額できますか?
A. できません。倍率地域に所在する特別警戒区域内の宅地は、減価がすでに固定資産税評価額に反映されているとして、本評価の適用対象外とされています。
まとめ
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)内となる部分を含む宅地は、財産評価基本通達20-6にもとづき、区域が占める割合に応じた特別警戒区域補正率(0.90〜0.70)を乗じて相続税評価額を減額できます。計算式は「路線価 × 奥行価格補正率 × 特別警戒区域補正率 × 地積」が基本です。がけ地補正に該当する場合は補正率を掛け合わせ(下限0.50)、一方で警戒区域(イエローゾーン)のみの宅地や倍率地域の宅地は対象外です。適用は平成31年(2019年)1月1日以後に取得した財産からとされています。区域指定の状況や土地の形状によって扱いが変わるため、判断に迷う場合は専門家に相談すると安心です。
(出典:財産評価基本通達20-5、20-6、付表8「がけ地補正率表」、付表9「特別警戒区域補正率表」、国税庁「財産評価基本通達の一部改正について(あらまし・情報)」平成30年12月付、土砂災害防止法7条・9条・24条・25条)