特許権の相続税評価はどうする?計算方法と注意点をわかりやすく解説
亡くなった方が特許を持っていた場合、その特許権も相続税の対象になります。ただし現金や不動産とは評価の考え方がまったく異なり、「将来受け取る補償金(実施料)を今の価値に割り引いて合計する」という独特の計算をします。この記事では、相続に直面した一般の方に向けて、特許権の相続税評価の仕組み・計算方法・つまずきやすい注意点を、根拠となる国税庁の通達をたどりながらやさしく整理します。
そもそも特許権は相続税でどう扱われるの?
特許権は相続税の課税対象となる財産で、財産評価基本通達の第7章「無体財産権」に定められた方法で評価します。 特許権は目に見えないものの、財産的な価値を持つ「無体財産権」の一つとして、相続財産に含めて申告する必要があります。評価のルールは財産評価基本通達140から145にまとめられています。
ここで最も重要なのが、「その特許を誰が使っているか」で評価方法が二つに分かれるという点です。被相続人(亡くなった方)が自分でその特許発明を実施(製造・販売など)していた場合と、第三者に使わせて実施料をもらっていた場合とで、扱いが変わります。
- 自分で実施していた場合: 特許権として単独では評価せず、その人の「営業権」の価額に含めて評価します(財産評価基本通達145)。つまり特許権と営業権を二重に計上しないための調整です。
- 第三者に実施を許諾して補償金(実施料)を得ていた場合: 後述する「将来の補償金を割り引いて合計する」方法で、特許権として評価します。
以下の図は、この分かれ道を整理したものです。
特許権の評価はどう計算するの?
第三者に実施許諾している特許権は、「その権利に基づいて将来受け取る補償金の額を、基準年利率による複利現価に割り引いて、全期間分を合計した額」で評価します(財産評価基本通達140)。 「複利現価」とは、将来もらえるお金を、金利を考慮して「今もらうとしたらいくらの価値か」に換算した金額のことです。将来のお金は今すぐ手元にある同額のお金より価値が低いと考えるため、割り引いて計算します。
具体的な算式は財産評価基本通達141で次のように定められています。
- 1年目の補償金額 × 1年後の複利現価率 = A
- 2年目の補償金額 × 2年後の複利現価率 = B
- (同様に n年目まで続ける) = N
- A + B + …… + N = 特許権の価額
ここでいう「1年目」は課税時期の翌日から1年を経過する日まで、「1年後」はその1年を経過した日の翌日を指します。
計算に必要な要素は、大きく次の3つです。
| 計算要素 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 補償金の額 | 各年に受け取る実施料など。金額が未確定なら、課税時期前の相当期間に受け取った補償金のうち経常的な収入と認められる部分をもとに、需要や持続性を考えて推算する | 通達142 |
| 補償金を受ける期間 | 課税時期から特許法67条に定める特許権の存続期間が終了する時期までの年数(1年未満の端数は切り捨て)の範囲内 | 通達143 |
| 複利現価率 | 基準年利率による割引率。国税庁が公表する複利表から、年数に応じた率を用いる | 通達141・複利表 |
割引に使う「基準年利率」は毎年(月別)に国税庁が通達で公表します。令和8年1〜3月分は次のとおりです。
| 期間区分 | 基準年利率(令和8年1〜3月分) |
|---|---|
| 短期(1〜2年) | 1.00% |
| 中期(3〜6年) | 1.50% |
| 長期(7年以上) | 2.50% |
課税時期の属する月と、補償金を受ける年数に応じた区分の率を使います。令和8年4月分以降は、その都度公表される通達を確認してください。
具体的な計算例で見てみよう
将来の補償金の単純な合計額ではなく、各年の金額を複利現価率で割り引いた合計が評価額になるため、実際の評価額は単純合計より小さくなります。 架空の数値で計算の流れを追ってみましょう。
【前提】
- 被相続人が第三者に特許を実施許諾し、実施料(補償金)を受け取っていた
- 課税時期は令和8年3月
- 特許権の残りの存続期間(1年未満切り捨て後) = 5年
- 将来5年間の補償金年額は、いずれも300万円(通達142により経常的な収入から推算した想定)
【手順】
補償金を受ける期間が5年なので、区分は「中期(3〜6年)」にあたり、基準年利率は1.50%を使います。各年の補償金300万円に、1年後・2年後…5年後それぞれの複利現価率(1.50%の複利表から取得する値)を掛けて、合計します。
| 経過年 | 補償金額 | 複利現価率(1.50%) | 現価 |
|---|---|---|---|
| 1年後 | 300万円 | 複利表参照 | A |
| 2年後 | 300万円 | 複利表参照 | B |
| 3年後 | 300万円 | 複利表参照 | C |
| 4年後 | 300万円 | 複利表参照 | D |
| 5年後 | 300万円 | 複利表参照 | E |
| 合計 | (単純合計1,500万円) | — | A+B+C+D+E=特許権の価額 |
補償金の単純合計は300万円×5年=1,500万円ですが、複利現価に割り引くため、特許権の評価額はこれより小さい金額になります。各年の複利現価率の具体的な数値は、課税時期に対応する国税庁の複利表から転記して埋める必要があります。実際の申告では、複利表の該当する率を使って正確に計算します。
なお、将来受け取ると見込まれる補償金の合計額が50万円に満たない少額の特許権は、評価しないこととされています(通達144)。
評価するときに間違えやすい注意点は?
自分で実施している特許は営業権に含めるため、規模によっては特許権の価額が結果的にゼロになることもあり、また似た権利でも計算方法が違う点に注意が必要です。 つまずきやすいポイントを整理します。
まず、被相続人が自ら特許を実施していた場合(通達145)は営業権として評価しますが、営業権の計算(通達165・166)には次のような定めがあります。
- 医師・弁護士などのように、その人の技術・手腕・才能を主とする事業で、事業者の死亡とともに消滅する営業権は評価しない(通達165の注)。
- 平均利益金額が5,000万円以下の場合は、標準企業者報酬額が平均利益金額の2分の1以上となり、算式上、営業権の価額が算出されない(通達166の注)。
つまり、自分で実施している特許でも、事業の規模や性質によっては営業権としての価額がゼロになることがあります。
次に、特許権と混同されやすい隣接する権利との違いです。
| 権利の種類 | 評価方法 | 根拠 |
|---|---|---|
| 特許権・その実施権 | 将来の補償金の複利現価の合計(自己実施は営業権へ) | 通達140〜145 |
| 実用新案権・意匠権・その実施権 | 特許権(140〜145)を準用(同じ方法) | 通達146 |
| 商標権・その使用権 | 特許権(140〜145)を準用(同じ方法) | 通達147 |
| 著作権 | 年平均印税収入の額 × 0.5 × 評価倍率(別の算式) | 通達148 |
実用新案権・意匠権・商標権は特許権とほぼ同じ考え方で評価しますが、著作権だけは「年平均印税収入 × 0.5 × 評価倍率」という別の算式で計算する点に注意してください(評価倍率は、印税収入が続く期間に応じた基準年利率による複利年金現価率です)。
よくある質問
Q1. 特許権も相続税の申告に含める必要がありますか?
A. はい、特許権は無体財産権として相続税の課税対象となる財産で、財産評価基本通達に従って評価し、申告する必要があります。ただし、被相続人が自ら特許を実施していた場合は特許権として単独では評価せず、営業権の価額に含めて評価します(通達145)。
Q2. 特許権の評価額はどうやって計算しますか?
A. 第三者に実施を許諾して補償金(実施料)を受け取っている場合、その権利に基づいて将来受け取る補償金の額を、基準年利率による複利現価に割り引き、全期間分を合計した額で評価します(通達140・141)。将来のお金を「今の価値」に換算して足し合わせるイメージです。
Q3. 補償金の金額が決まっていない場合はどうしますか?
A. 将来受け取る補償金の額が確定していない場合は、課税時期前の相当の期間内に受け取った補償金のうち、その特許権の経常的な収入と認められる部分をもとに、その特許権の需要や持続性などを考えて推算した金額を、将来受け取る補償金の額とします(通達142)。
Q4. 価値の小さい特許権でも評価しなければいけませんか?
A. 課税時期の後に受け取ると見込まれる補償金の合計額が50万円に満たないと認められる特許権は、評価しないこととされています(通達144)。少額のものまで一律に評価する必要はありません。
Q5. 実用新案権や商標権も特許権と同じように評価しますか?
A. 実用新案権・意匠権とその実施権(通達146)、商標権とその使用権(通達147)は、いずれも特許権の評価方法(通達140〜145)を準用するため、基本的に同じ考え方で評価します。一方、著作権は別の算式(年平均印税収入 × 0.5 × 評価倍率)で計算するため、混同しないよう注意が必要です(通達148)。
まとめ
特許権の相続税評価は、「誰がその特許を使っているか」で入口が二つに分かれます。被相続人が自ら実施していた場合は営業権の価額に含めて評価し(通達145)、第三者に実施許諾して補償金を得ていた場合は、将来受け取る補償金を基準年利率による複利現価に割り引いて合計する方法で評価します(通達140・141)。補償金額が未確定なら過去の経常収入をもとに推算し(通達142)、受取期間は特許権の存続期間終了までの年数の範囲内で見積もります(通達143)。将来の補償金合計が50万円未満なら評価しません(通達144)。
実用新案権・意匠権・商標権は特許権と同じ方法を準用し(通達146・147)、著作権だけは別の算式である点に注意しましょう(通達148)。複利現価率や基準年利率は課税時期によって変わり、計算には国税庁の複利表と各年の基準年利率の通達が必要です。特許権を含む相続は評価の判断が難しいため、実際の申告にあたっては税務署や税理士など専門家に確認することをおすすめします。
(出典: 財産評価基本通達140・141・142・143・144・145・146・147・148・165・166、令和8年分の基準年利率について(法令解釈通達)、複利表(財産評価基本通達 付表)、国税庁)