がけ地がある宅地の相続税評価はどう計算する?がけ地補正率と減額の仕組みを解説
相続した土地に急な斜面(がけ)が含まれていると、「この部分も普通の土地と同じ金額で評価されるの?」と不安になる方は少なくありません。実は、こうした宅地は「がけ地補正率」という仕組みで評価額を下げることができます。この記事では、国税庁の一次情報(財産評価基本通達・質疑応答事例)にもとづき、がけ地を含む宅地の相続税評価の考え方と計算方法を、具体的な数値例を交えてやさしく解説します。
そもそも「がけ地等を有する宅地」とは何ですか?
平たん部分とがけ地部分が一体となっている一区画の宅地のことで、がけ部分は通常の用途に使えないため評価額を減らせる、というのが基本の考え方です。
イメージしやすいのは、ひな段式に造成された住宅団地でよく見られる、擁壁(ようへき)を伴う斜面付きの土地です。この擁壁は人工のものでも自然のものでも問われません。がけの部分は、平たん部分への採光や通風といった効用を高める役割はあるものの、その部分自体を建物用地などとして通常どおり利用することはできません。そのため、評価上は「減価がある」として補正を行います。
ここで重要な限定があります。がけ地補正が使えるのは、あくまで平たん部分とがけ地部分等が「一体」となっている宅地の場合だけです。平たん部分(宅地)と、それ以外の部分(山林や雑種地など)を、そもそも別々の評価単位として評価すべきケースでは、がけ地補正の対象にはなりません。
(財産評価基本通達20-5、国税庁 質疑応答事例「がけ地補正率を適用するがけ地等を有する宅地」)
がけ地がある宅地の評価額はどう計算しますか?
「がけ地がなかったとした場合の価額」に、方位と割合に応じた『がけ地補正率』を掛けて評価します。
財産評価基本通達20-5は、がけ地等を有する宅地の価額を、そのがけ地等ががけ地でないとした場合の価額に、総地積に対する「通常の用途に供することができない部分」の地積の割合に応じて、付表8「がけ地補正率表」に定める補正率を乗じて計算する、と定めています。
実務上の計算式は次のようになります。
評価額 = 路線価 × 奥行価格補正率等 × がけ地補正率 × 総地積
このとき使う「がけ地割合」は、次の式で求めます。
がけ地割合 = がけ地の地積 ÷ 総地積(= がけ地地積 ÷(平たん地積 + がけ地地積))
このがけ地割合と、がけの方位(斜面の向き)の2つで、掛けるべき補正率が決まります。
(財産評価基本通達20-5、国税庁 質疑応答事例「がけ地等を有する宅地の評価」)
がけ地補正率の数値はどうなっていますか?
がけ地割合が大きいほど、また斜面の向きが北向きに近いほど、補正率は小さくなり(=減額が大きくなり)ます。
付表8「がけ地補正率表」の数値は次のとおりです。行は「総地積に対するがけ地地積の割合」、列は「がけ地の方位(斜面の向き)」です。数値が小さいほど評価額の下げ幅が大きくなります。
| がけ地地積 / 総地積 | 南 | 東 | 西 | 北 |
|---|---|---|---|---|
| 0.10以上 | 0.96 | 0.95 | 0.94 | 0.93 |
| 0.20以上 | 0.92 | 0.91 | 0.90 | 0.88 |
| 0.30以上 | 0.88 | 0.87 | 0.86 | 0.83 |
| 0.40以上 | 0.85 | 0.84 | 0.82 | 0.78 |
| 0.50以上 | 0.82 | 0.81 | 0.78 | 0.73 |
| 0.60以上 | 0.79 | 0.77 | 0.74 | 0.68 |
| 0.70以上 | 0.76 | 0.74 | 0.70 | 0.63 |
| 0.80以上 | 0.73 | 0.70 | 0.66 | 0.58 |
| 0.90以上 | 0.70 | 0.65 | 0.60 | 0.53 |
方位の判定には注意点があります。がけ地の方位は斜面の向きで判定します。表にない「南東」などの中間方位については、隣り合う方位(この場合は東と南)の補正率を平均して求めてよいとされています。また「北北西」のようなケースでは、単に「北」の方位によることとしても差し支えないとされています。
(財産評価基本通達 付表8「がけ地補正率表」およびその注)
実際の数値で計算するとどうなりますか?(単一方位のケース)
国税庁の設例では、路線価30万円・南向きのがけ地を含む240㎡の宅地が、がけ地補正により約6,624万円と評価されます。
国税庁の質疑応答事例に示された前提で計算してみましょう。
- 普通住宅地区、路線価 300,000円
- 平たん部分A = 180㎡、がけ地部分B = 60㎡、総地積 240㎡
- 奥行価格補正率 1.00、がけ地の方位 = 南
まず、がけ地割合を求めます。
がけ地割合 = 60㎡ ÷(180 + 60)㎡ = 0.25
0.25は表の「0.20以上」の区分にあたり、方位が南なので、補正率は 0.92 です。これを使って評価額を計算します。
評価額 = 300,000円 × 1.00 × 0.92 × 240㎡ = 66,240,000円
もしがけ地補正を使わなければ、300,000円 × 240㎡ = 72,000,000円ですので、この例では約576万円の減額になっています。
(国税庁 質疑応答事例「がけ地等を有する宅地の評価」)
斜面が2方向にある場合はどう計算しますか?
2方位以上のがけ地がある場合は、方位ごとの補正率をがけ地の地積で加重平均して1つの補正率を求めます。
このとき使う各方位の補正率は、「その方位だけの割合」ではなく「がけ地部分全体の割合(総地積に対するがけ地全体の割合)」に応じた値を使う点がポイントです。
国税庁の設例で確認します。
- 総地積 400㎡、平たん部分 200㎡
- 西斜面 100㎡、南斜面 100㎡(がけ地全体 200㎡)
- 土砂災害特別警戒区域の指定はなし
まず、がけ地全体の割合を求めます。
がけ地割合 =(100 + 100)㎡ ÷ 400㎡ = 0.50
割合0.50の行を見ると、西 = 0.78、南 = 0.82 です。これを地積で加重平均します。
がけ地補正率 =(0.78 × 100㎡ + 0.82 × 100㎡)÷ 200㎡ = 0.80
この0.80が、この宅地に適用するがけ地補正率になります。
(国税庁 質疑応答事例「――2方向にがけ地部分を有する場合」、財産評価基本通達 付表8注2)
がけ地補正と似た制度との違いは何ですか?
「がけ地補正(20-5)」と「土砂災害特別警戒区域の補正(20-6)」は別の制度で、混同に注意が必要です。
「がけ=土砂災害特別警戒区域」ではありません。土砂災害特別警戒区域の補正は、土砂災害防止法にもとづく区域指定を要件とする別の補正(付表9「特別警戒区域補正率表」)です。両方の要件を満たす宅地では、付表9で求めた補正率にがけ地補正率を乗じた数値を特別警戒区域補正率としますが、その最小値は0.50とされています(掛け合わせるが下限は0.50)。
主な補正制度の違いを整理すると次のようになります。
| 制度 | 根拠 | 何に対する補正か | がけ地補正との関係 |
|---|---|---|---|
| がけ地補正 | 通達20-5・付表8 | 平たん部分と一体のがけ地部分 | 本記事の対象 |
| 特別警戒区域補正 | 通達20-6・付表9 | 土砂災害特別警戒区域内の宅地 | 併存時は掛け合わせ・下限0.50 |
| 不整形地補正 | 通達20・付表5 | いびつな形状の宅地 | 別個の補正(要件を満たせば併用しうる) |
| 間口狭小・奥行長大 | 通達20-4・付表6/7 | 間口が狭い・奥行が長い宅地 | 別個の補正 |
| 地積規模の大きな宅地 | 通達20-2 | 面積の大きい宅地 | 別個の補正 |
なお、がけ地補正と、不整形地補正・間口奥行の補正・規模格差補正などを同一の宅地で併用する際の適用順序や重複可否の細目については、個別の状況により判断が分かれる部分があるため、実際の申告では専門家に確認することをおすすめします。
また、インターネット上ではがけ地の評価としてタックスアンサー「No.4626」が紹介されることがありますが、No.4626は「生産緑地の評価」であってがけ地の制度ではない点にも注意してください。
(財産評価基本通達20-5・20-6、付表8・付表9注、通達20・20-2・20-4)
よくある質問
Q1. がけ地補正を使うと、どのくらい評価額が下がりますか?
A. がけ地割合と斜面の方位によって変わります。付表8では、がけ地割合0.10以上・南向きなら補正率0.96(約4%減)、がけ地割合0.90以上・北向きなら0.53(約47%減)と、幅があります。割合が大きく、北向きに近いほど下げ幅が大きくなります。
Q2. どんな土地でもがけ地補正が使えますか?
A. いいえ。使えるのは、平たん部分とがけ地部分が一体となっている一区画の宅地に限られます。平たん部分(宅地)と、それ以外(山林・雑種地など)を別々の評価単位として評価すべき場合は、がけ地補正の対象外とされています。
Q3. がけ地が南東など表にない方位を向いている場合はどうしますか?
A. 表に定められていない「南東」などの中間方位については、隣り合う方位(東と南)の補正率を平均して求めて差し支えないとされています。「北北西」のようなケースでは、単に「北」の方位によることとしても差し支えないとされています。
Q4. がけが土砂災害特別警戒区域に指定されている場合はどうなりますか?
A. がけ地補正(通達20-5)とは別に、特別警戒区域の補正(通達20-6・付表9)があります。両方の要件を満たす場合は、付表9で求めた補正率にがけ地補正率を乗じますが、その最小値は0.50とされています。「がけ=特別警戒区域」ではない点に注意が必要です。
Q5. がけ地に該当するかどうかの角度や高低差の基準はありますか?
A. 財産評価基本通達や質疑応答事例では、「通常の用途に供することができないと認められる部分」という定性的な要件で定められており、斜面の角度や高低差の数値基準は示されていません。該当性の判断に迷う場合は、税務署や税理士に相談するとよいでしょう。
まとめ
がけ地を含む宅地は、「がけ地がなかったとした場合の価額」にがけ地補正率を掛けることで、相続税評価額を下げることができます。ポイントは、(1)平たん部分とがけ地が一体の一区画であること、(2)がけ地割合(がけ地÷総地積)と斜面の方位で付表8の補正率が決まること、(3)2方位以上ある場合は地積で加重平均すること、の3点です。さらに、土砂災害特別警戒区域の補正など似た制度との違いにも注意が必要です。評価額の差が納税額に直結するため、判断に迷う場合は一次情報(財産評価基本通達・国税庁の質疑応答事例)を確認しつつ、専門家に相談することをおすすめします。
(出典:財産評価基本通達20-5・20-6・付表8・付表9、国税庁 質疑応答事例「がけ地等を有する宅地の評価」「がけ地補正率を適用するがけ地等を有する宅地」ほか)