貸付金債権の相続税評価はどうする?回収不能なら減額できるのか完全解説
亡くなった方が誰かにお金を貸していた場合、その「貸付金債権」も相続財産として相続税の対象になります。返ってくるか分からない債権をどう評価するのか、迷う方は少なくありません。この記事では、財産評価基本通達204・205を手がかりに、原則的な評価方法と、回収が難しいときの取扱いを一般論として整理します。
貸付金債権は相続税でどう評価する?
貸付金債権は、原則として元本の価額と利息の価額を合計した金額で評価します(財産評価基本通達204)。
相続税の評価は「取得の時における時価による」という時価主義が出発点です(相続税法22条)。この時価の具体的な取扱いを定めたのが財産評価基本通達で、貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金などの「貸付金債権等」は、通達204により元本と利息の合計で評価するのが原則とされています(財産評価基本通達204)。
元本と利息はそれぞれいくらで評価する?
元本は「返済されるべき金額」、利息は「課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額」で評価するのが基本です(財産評価基本通達204(1)(2))。
元本は原則として債権の額面(返済されるべき金額)を用います。利息は、課税時期(相続開始時)までに発生している既経過利息のうち、支払を受けるべき金額を評価します。ただし通達208に定める未収法定果実としての利子は、別途208で評価するため204の利息からは除かれます(財産評価基本通達204(2)・208)。
| 区分 | 評価する金額 | 根拠 |
|---|---|---|
| 元本 | 返済されるべき金額(原則、債権額面) | 通達204(1) |
| 利息 | 課税時期現在の既経過利息 | 通達204(2) |
| 208対象の利子 | 204の利息からは除外(208で評価) | 通達204(2)・208 |
回収できない貸付金は減額できる?
債権の全部または一部が回収不能・著しく困難と見込まれる客観的状況にあるときは、その金額を元本に算入しません(財産評価基本通達205)。
通達205は、204で評価する場合に、債権金額の一部が課税時期において一定の状態に該当するときや、「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」は、その金額を元本の価額に算入しないと定めています(財産評価基本通達205柱書)。ここは債権者が主観的に「回収は難しそう」と考えるだけでは足りず、客観的な事実や状況が必要とされる点に注意が必要です(財産評価基本通達205柱書・(1))。
どんなときに元本から除ける?
手形交換所の取引停止処分、更生・再生・破産などの手続開始決定、6か月以上の休業や事業廃止など、通達205(1)が列挙する客観的事実があるときが典型例です(財産評価基本通達205(1))。
通達205(1)は、債務者について次のような事実が発生している場合の債権を元本に算入しないとしています。イ 手形交換所での取引停止処分、ロ 会社更生法による更生手続開始の決定、ハ 民事再生法による再生手続開始の決定、ニ 会社法による特別清算開始の命令、ホ 破産手続開始の決定、ヘ 業況不振などにより事業を廃止し、または6か月以上休業しているとき、などです(財産評価基本通達205(1)イ〜ヘ)。ただし、質権や抵当権によって担保されている部分の金額は除外の対象から外れ、引き続き元本に算入して評価します(財産評価基本通達205(1)括弧書)。
債権の切捨てや年賦償還が決まったら?
更生計画認可などで切り捨てられる部分や、弁済までの据置期間が決定後5年を超えるもの、課税時期後5年経過後に弁済される部分は元本に算入しません(財産評価基本通達205(2))。
更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特別清算の協定認可、または債権者集会の協議などにより、債権の切捨て・棚上げ・年賦償還等が決まった場合、切り捨てられる部分の金額に加え、イ 弁済までの据置期間が決定後5年を超えるときのその債権の金額、ロ 年賦償還等で課税時期後5年を経過した日後に弁済される部分の金額を、元本に算入しないとされています(財産評価基本通達205(2)イ・ロ)。当事者間の契約による場合でも、金融機関のあっせんに基づくなど真正に成立したと認められるときは、これに準ずる金額を算入しないとされています(財産評価基本通達205(3))。
同族会社への貸付金も同じ?
自分が経営する同族会社への貸付金にも通達204・205の特則はなく、原則どおり元本+既経過利息で評価するのが基本です(財産評価基本通達204・205)。
同族会社に対する貸付金についても、通達204・205には別段の特例規定は置かれていません。したがって原則として204により評価し、元本から除くには205の客観的な要件を満たす必要があると考えられます。実際の当てはめは事情によって異なり得るため、判断に迷う場合は税理士など専門家に相談することをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 貸付金債権はいつの時点の金額で評価しますか?
A. 相続税の評価は取得の時の時価によるとされており、貸付金債権も原則として課税時期(相続開始時)の状況で評価します。利息も課税時期現在の既経過利息を対象とします(相続税法22条、財産評価基本通達204)。
Q2. 借用書がない個人間の貸付金も相続財産になりますか?
A. 一般に、返済されるべき貸付金債権があれば相続財産として評価の対象になり得ます。実際に債権として認められるか、金額をどう把握するかは事情によって異なるため、個別の確認が必要です。
Q3. 相手が事業をやめていれば必ず減額できますか?
A. 通達205(1)では、事業を廃止し、または6か月以上休業しているときが例として挙げられています。もっとも、担保されている部分は除外の対象外となるなど条件があり、要件を満たすかは客観的な状況で判断されます(財産評価基本通達205(1))。
Q4. 「回収が難しそう」という自己判断だけで元本を減らせますか?
A. 一般に、債権者の主観的な見込みだけでは足りないと考えられます。通達205は、法的手続の開始決定や取引停止処分などの客観的事実、または回収が不可能・著しく困難と見込まれる客観的状況を求めています(財産評価基本通達205柱書・(1))。
Q5. 貸付金の評価は自分で判断してよいですか?
A. 評価は財産評価基本通達にもとづきますが、当てはめには専門的な判断を伴う場面があります。税制はYMYL領域でもあるため、最終的な取扱いは税理士など専門家に確認することをおすすめします。
まとめ
- 原則は元本+利息:貸付金債権等は元本(返済されるべき金額)と既経過利息の合計で評価します(財産評価基本通達204)。
- 時価主義が出発点:評価の根拠は取得の時の時価による相続税法22条にあります。
- 回収不能は客観要件が必要:主観ではなく、取引停止処分・各種手続開始決定・6か月以上の休業などの客観的事実が求められます(財産評価基本通達205(1))。
- 担保付き部分は除外できない:質権・抵当権で担保された部分は引き続き元本に算入します(財産評価基本通達205(1)括弧書)。
- 切捨て・年賦償還は5年が目安:据置期間が決定後5年超、課税時期後5年経過後に弁済される部分などは元本不算入とされます(財産評価基本通達205(2))。
- 迷ったら専門家へ:同族会社への貸付金なども含め、個別の当てはめは税理士に相談するのが安心です。