生命保険契約に関する権利の相続税評価はどうする?解約返戻金での計算方法をわかりやすく解説
「亡くなった父が保険料を払っていた保険があるけれど、まだ保険金は出ていない。これは相続税に関係あるの?」——このような契約は「生命保険契約に関する権利」として相続税の対象になります。保険金を受け取っていなくても申告が必要になるケースがあり、申告漏れが起きやすいところです。この記事では、その評価方法と計算の考え方を、根拠となる国税庁の資料をもとにわかりやすく整理します。
そもそも「生命保険契約に関する権利」とは何ですか?
相続開始のときに、まだ保険事故(死亡など)が発生していない生命保険契約そのものの価値を評価する仕組みです。
ポイントは、「保険金」ではなく「契約に関する権利」を評価する点です。被保険者がまだ亡くなっていないため保険金は支払われていませんが、その契約には「今解約すればお金が戻ってくる」という財産的な価値があります。この価値を相続財産として捉えます。
この権利には、大きく2つの類型があります。
- (A) 本来の相続財産:被相続人が契約者であり、かつ保険料も負担していた契約(被保険者は別の人)。被相続人固有の財産として引き継がれます。
- (B) みなし相続財産:被相続人が保険料を負担していたが、契約者は被相続人以外の人だった契約。この場合、契約者となっている人が相続または遺贈によって「生命保険契約に関する権利」を取得したものとみなされます(相続税法第3条第1項第3号)。
(B)のみなし取得については、みなされた時以後は、その契約者が自分で保険料を負担したものと同様に取り扱うこととされています(相続税法基本通達3-35)。
評価額はどうやって計算しますか?
課税時期に契約を解約したと仮定した場合の「解約返戻金の額」を基礎として評価します。
財産評価基本通達214では、まだ保険事故が発生していない生命保険契約に関する権利の価額は、相続開始のときにその契約を解約するとした場合に支払われる解約返戻金の額によって評価する、と定められています。そのうえで、次の項目を加算・減算します。
評価額 = 解約返戻金の額 +(前納保険料の金額 + 剰余金の分配額等)−(源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額)
- 加算する項目:解約返戻金のほかに支払われる前納保険料の金額、剰余金の分配額等
- 減算する項目:解約返戻金の額について源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額(この所得税額には復興特別所得税の額に相当する金額を含みます)
なお、解約返戻金相当額は、契約先の生命保険会社などに照会して確認します。照会には時間がかかることもあるため、余裕をもって確認することがすすめられています。
補正率や倍率をかける必要はありますか?
ありません。解約返戻金の額を基礎に、実額の項目を加算・減算するだけで、補正率・倍率・割合の類は一切使いません。
土地の評価などでは補正率表や倍率表を使いますが、生命保険契約に関する権利の評価にはそうした係数は登場しません。財産評価基本通達214に定められているのは、あくまで解約返戻金の額と、前納保険料・剰余金・源泉所得税といった実際の金額項目のみです。計算式がシンプルなぶん、「解約返戻金の額がいくらか」を保険会社に正確に確認することが実務上の要になります。
具体的な計算例で見てみましょう
契約者や保険料負担者が誰かによって、本来の相続財産かみなし相続財産かが変わりますが、評価額の計算方法自体は同じです。
国税庁が公表する「相続税の申告のしかた(誤りやすい事例)」の設定をもとに、2つのケースを見てみます。
ケース1:本来の相続財産となる場合
父(被相続人)が契約者かつ保険料負担者で、被保険者は娘という契約です。父の相続開始時点で被保険者である娘は健在なので、保険事故はまだ発生していません。この契約の解約返戻金相当額が450万円だったとします。
この場合、生命保険契約に関する権利として 4,500,000円 を評価額とし、相続税の申告書「第11表の付表4」に記入します。仮に別の契約で娘が受け取った死亡保険金がある場合、そちらは死亡保険金として別の様式(第9表)で扱う、という切り分けになります。
ケース2:みなし相続財産となる場合
契約者と被保険者はともに娘で、保険料を負担していたのが父(被相続人)というケースです。この場合、娘が「生命保険契約に関する権利」を取得したものとみなされます。解約返戻金相当額が450万円なら、同じく 4,500,000円 を第11表の付表4に記入します。
いずれのケースも、評価額の計算方法は「解約返戻金の額を基礎とする」という点で共通しています。
どんなときに評価対象外になりますか?
解約返戻金のない、いわゆる「掛捨型」の生命保険契約は評価しません。
一定期間内に保険事故が発生しなかった場合に解約返戻金等の支払がない契約(掛捨型)は、生命保険契約に関する権利の対象になりません。解約してもお金が戻らない契約には財産価値がないため、というのが理由です。
また、保険料を負担していない人が契約者として死亡した場合について、その人が保険料を負担していないとき(第3条第1項第3号のみなし取得に該当する場合を除く)は課税しないものとされています(相続税法基本通達3-36(2))。契約者という「名義」だけで自動的に課税されるわけではない点に注意が必要です。
死亡保険金の「500万円×法定相続人の数」は使えますか?
使えません。生命保険契約に関する権利は保険事故が発生していないため、死亡保険金の非課税枠の対象外です。
ここは混同しやすいところです。整理すると次のようになります。
| 区分 | 状況 | 評価・課税の基礎 | 500万円×法定相続人の非課税枠 |
|---|---|---|---|
| 生命保険契約に関する権利 | 保険事故が未発生(保険金は出ていない) | 解約返戻金の額を基礎に評価(財基通214) | 適用なし |
| 死亡保険金(みなし相続財産) | 被相続人の死亡で保険事故が発生し保険金が支払われる | 支払われた保険金の額 | 適用あり(相続人が取得した場合) |
死亡保険金については、受取人が相続人であれば「500万円 × 法定相続人の数」を非課税限度額とする枠があります(タックスアンサーNo.4114)。ただし、相続人以外の人が取得した死亡保険金には、この非課税の適用はありません。一方、生命保険契約に関する権利はそもそも保険金が支払われていない段階の評価なので、この非課税枠は使えません。
なお、「定期金に関する権利」は財産評価基本通達の別の区分で評価されるものであり、生命保険契約に関する権利(通達214)とは別建てです。
よくある質問
Q1. 保険金を受け取っていなければ、相続税の申告は不要ですか?
A. いいえ。保険金を受け取っていなくても、被相続人が保険料を負担していた契約で解約返戻金があるものは「生命保険契約に関する権利」として評価し、申告書の第11表の付表4に記入する必要があります。「保険金を受け取っていないから課税対象外」と誤解して記載しない申告漏れが、国税庁の誤りやすい事例でも取り上げられています。
Q2. 解約返戻金の額はどうやって調べればよいですか?
A. 契約先の生命保険会社などに照会して確認します。相続開始時点で解約したと仮定した場合の解約返戻金相当額が評価の基礎になります。照会には時間がかかることもあるため、余裕をもって確認することがすすめられています。
Q3. 契約者が被相続人でなくても課税されることがあるのですか?
A. あります。被相続人が保険料を負担し、契約者が被相続人以外の人だった契約では、その契約者が「生命保険契約に関する権利」を相続または遺贈で取得したものとみなされます(相続税法第3条第1項第3号)。これを「みなし相続財産」といいます。
Q4. 掛捨ての医療保険なども評価する必要がありますか?
A. 解約返戻金のない、いわゆる掛捨型の生命保険契約は評価の対象になりません。解約しても戻るお金がない契約には財産的な価値がないためです。解約返戻金があるかどうかを保険会社に確認するとよいでしょう。
Q5. 評価額に補正率や割引はかかりますか?
A. かかりません。解約返戻金の額を基礎に、前納保険料や剰余金の分配額等を加算し、源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額を減算するだけで、補正率・倍率の類は使いません。
まとめ
生命保険契約に関する権利は、「相続開始時にまだ保険事故が発生していない生命保険契約」の財産価値を評価する仕組みです。ポイントを整理します。
- 評価の基礎は解約返戻金の額。ここに前納保険料・剰余金の分配額等を加算し、源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額(復興特別所得税を含む)を減算する
- 補正率や倍率は使わないシンプルな計算
- 保険料を被相続人が負担していれば、契約者が誰かによって「本来の相続財産」か「みなし相続財産」かに分かれるが、評価方法は同じ
- 掛捨型(解約返戻金なし)は評価対象外
- 死亡保険金の「500万円×法定相続人の数」の非課税枠は、保険事故未発生のこの権利には使えない
- 申告書は第11表の付表4に記入する
保険金を受け取っていないという理由で見落とされやすい財産です。被相続人が保険料を負担していた契約がないか、保険証券などを一度確認しておくと安心です。個別の契約内容による判断は、税務署や税理士など専門家に相談することをおすすめします。
(出典:財産評価基本通達214・193、相続税法第3条第1項第3号、相続税法基本通達3-35・3-36、国税庁タックスアンサーNo.4660「生命保険契約に関する権利の評価」・No.4114「相続税の課税対象になる死亡保険金」、国税庁「相続税の申告のしかた(誤りやすい事例)」)